虹色です。
バカみたいに幸せで、
バカみたいに苦しくて、
でもなんだかんだ、やっぱり愛おしい──
そんな夜、ありませんか?
ちょっと手をつないだだけで、世界がやさしくなって、
でも帰り際には、なんでこんなに苦しいんだろうって思ったりして。
「あと5分だけ」
「もうちょっとだけ、そばにいたい」
…なんて、そんな気持ちを、何度、飲み込んできたことか。
誰にも話せないぶん、想いが行き場をなくして、気づけば心の奥深くに静かに染み込んでいくんですよね。
本日は、当時、彼と私が、よくやっていた“遊び”をご紹介します。
アホやなぁ、と笑っていただけたら嬉しいです.
帰りたくない
私たちが会えるのは、平日の仕事帰り。
ほんの少しの時間に、すべてを詰め込む。
お互い家庭があり、まだ小さな子どももいる。
だから、一緒に過ごせる時間はいつだって、
“奪うようにしてつくった時間”だった。
会っている間は、笑っていても、
時計の針はずっと気になっていた。
「何時までなら大丈夫?」
「子ども、熱出してないかな?」
「今日、旦那(妻)早く帰るって言ってたっけ」
——どれだけ心が通っても、
私たちはいつも“制限時間付きの恋人”だった。
帰り際の5分、10分が、どれだけ貴重だったか。
ただ顔を見るだけでホッとしたし、
ほんの一言交わせるだけで、世界が色を取り戻す気がした。
会話の続きは、車に乗ってからの電話で。
「また明日ね」
そう言って電話を切ると、
それぞれの家へと帰っていく。
子どもたちの待つ場所へ。
本当は、帰りたくなかった。
「帰りたくない」なんて、一度も口にはできなかった。
でも、何百回も心の中では呟いてた。
まだ一緒にいたい。でも、帰らなきゃ。
その葛藤の中で揺れながら、
それでも、会えないよりはマシだと、自分に言い聞かせる日々。
(切なかったなぁ。でもね、お互い、「子どもはちゃんと育てたい」って気持ちが大きかった。
だから、どれだけ好きでも、帰らないという選択肢はなかったの。
一緒にいたい気持ちと、親である責任の間で、
心はいつもシーソーのように揺れていた。)


何にもないビジネスホテル
年末。
お互い、家庭にこもる前に会う“最後の日”を、毎年、こっそり決めていた。
付き合いたての頃は、子どもが本当に小さくて、
日帰りデートが精一杯だった。
それでも、数年の時が流れて、
ほんの少しだけ、家族が手を離してくれた。
「一泊だけなら……」
そうして、年に一度だけ、
ひっそりとホテルに泊まるようになった。
それは、ただの田舎のビジネスホテル。
駅から少し離れた、観光地でもない、何もない街。
宿泊客は、ほとんどが仕事のサラリーマンか、
年末の帰省で移動中の家族連れ。
そんな中で、私たちみたいなカップルは、たぶん浮いていた。
でも、気にしなかった。
むしろ、そういう場所だからこそ、安心できた。
誰にも見られず、誰にも詮索されない、
“ふたりだけの場所”だったから。
ホテルの部屋に入って、鍵を閉めるとき、
私たちはようやく、
“社会的な顔”を全部脱いで、
ただの男女に戻れた。

今夜は帰さない
その夜、ホテルで必ずやっていた小さな遊びがある。
名付けて、「今夜は帰さないごっこ」
ベッドに入って、部屋が暗くなった頃、
私がぽつんと呟くの。
「今日は、帰りたくない」
すると、彼が少し笑って、こう言う。
「うん。今夜は、帰さない」
……バカみたいでしょ?
だって、どうせ泊まるんだから。笑
でも、ふたりとも本気で言ってた。
いつもは、帰るのが当たり前だった。
時間にもルールにも、感情にも制限があった。
だから、わがままなんて言わないし、言えなかった。
でも、この夜だけは違った。
この日だけは、
“帰らない”ことが許される日だったから。
「帰りたくない」
「帰さない」
子どもみたいに何度も何度も繰り返して、
一年分の我慢や寂しさを、
たった一晩に込めていた。
たったそれだけのやり取りで、
心がふっと、軽くなる気がした。
ほんの少しの遊びだったけど、
私たちにとっては、特別な儀式だった。
そして今も、「帰りたくない」と思ってる(笑)

あれから四半世紀
あの頃と同じように、連絡は控えめ。
でも、会える時間はだいぶ増えた
そして、彼との関係は、ずっと続いている。
お互いの子どもたちも立派に育ってくれた。
親としての責任もちゃんと果たした。
はず(笑)
誰も傷つけずに、今日まで来た。表向きはね。多分。
でも、何でもない静かな夜。
ふと、思い出す。
——あのホテルの、狭くて何もない部屋。
——「帰さないよ」って笑ってくれた彼の声。
恋の真ん中にいるときは、いつも少し不安で、
でも、不安すらも愛おしくて、
その一瞬一瞬が、今も色鮮やかに心に残っている。
許されなかった恋だけど。
でも、どうしても抑えることができなかった。
そして、この恋の終わりを書かずに、
続けることを選んだ私たち。
家庭の中で「誰かの何か」であり続ける日々。
だけどあの夜だけは、ただの自分に戻れた気がした。
そんな時間だった。
だからこそ、「今夜は帰さないごっこ」は、四半世紀たった今でも、優しい思い出として、心に灯り続けている。
あなたにも、そんな心に残る夜がありますか?
なんか、呑みたくなってきたぞぉ(^^♪
ハピコでも誘って、飲んじゃおかな
またお会いしましょう。
虹色でした。